かつて新聞の紙面の一角に、月に一度、さらに小さな「新聞」が
存在しました。
その名も、毎月新聞、という。。。
「毎月新聞」(文と絵 佐藤雅彦 毎日新聞社、2003年)
作者の佐藤雅彦さんは「だんご3兄弟」「ピタゴラスイッチ」の生みの親の
ひとりであり、多方面で活躍されているマルチクリエイター、アーティストと
いえばいいのでしょうか。
振り返れば、この日本一小さな全国紙が発刊されていた1998年から2002年は、
激動の4年間でした。
その後の世界情勢を大きく変える出来事も、この間にありました。
毎月新聞は、そんな世の中の動きと絶妙に絡みつつ、独自の目線で身近に
起こるミクロな事件にクローズアップしています。
特に好きなのが、「オレンジの皮」という回で、佐藤さんが忙しさから
深い疲労感や虚脱感に陥っていたとき、冷蔵庫の奥でひからびかけていた
ネーブルオレンジに思いがけず救われるお話です。
記事の後半で、佐藤さんは次のように語っています(以下抜粋)。
「僕は、身動きのとれない状況を動かすことのきっかけが、
自分が本来何をなすべきかという、大上段に構えた正論ではなく、
1個のネーブルオレンジだったという現実に素直に感動した。
もしや、未来のみえない閉塞状態にある日本も、小さな問題を
きちんと解決することが、この流れを変えるきっかけになるかも
しれない。」
ハープの形とピアノの曲線の相似に関する気づき、6月37日の破壊力、
昼の定食屋での悲劇、海亀のスープという奇妙な遊び。。。
各回にカエルの男の子が主人公の「ケロパキ」という3コママンガが
付いていることも、この新聞の大きな魅力でしょう
(カエルが冬眠する期間は、「渡り鳥の三吉」が掲載されています)。
日常のささやかな出来事が、やがて大きな流れを作り出す最初の
一滴になる。
ずいぶん時間が経って、世の中はさらに変化していますが、決して
色あせない一冊です。