正方形は、一辺約1.5mを三等分するように白いラインが
引かれていて、9つのマス目に区切られています。
数学の問題ではありません。
真ん中のマスには造花の鉢植えが置かれ、周りを囲むように
相席のテーブルになっているのです。
気兼ねなく思い思いの時を過ごせるようにと配慮された、
チェーンのカフェの工夫です。
左下の角のマスは、フセンで膨れ上がった単語帳をめくる若い
女の人。
受験シーズンの追い込みでしょうか。
アイスコーヒーの汗を垂らさないよう、コップの下にきちんと
紙ナプキンを敷いているのを見て、心の中でなんとなく応援したく
なります。
そこから上がった左側の2マスは、マンションの間取り図を並べる
男女。
不動産屋でめぼしい物件の情報を打ち出してもらった帰りのようです。
ここが使いやすそうだね、など、丁寧にひとつずつ検討しています。
落ち着いているけれど、楽しげな様子が伝わってくるようです。
さらにぐるり、上段真ん中と右のマスに、60代くらいのご夫婦。
ふたりとも文庫本を読んでいます。
どちらも時代小説のようです。
本屋で買ってきて、家に帰る前に早速カフェで読み始めたところでしょうか。
ほとんど会話しませんが、2マスの境界線は携帯ラジオや
手袋がはみ出して、緩やかにつながっているように見えました。
この図は何かに似ている。
寝坊した頭がなかなか冴えず、下段右端でぼんやりコーヒーを
飲んでいたわたし。
ふと、1~9まで異なる数字をうめていく、某ナンバーパズルが浮かびました。
同じ空間を共有していながらも、独立した正方形たち。
微妙な孤独と、奇妙な連帯を感じた、休日の午後でした。