なあ、と呼ばれて振り返ると、クラスの男子が言い争いを
していたのでした。
「歯って、ダイヤモンドより硬いよな?」
は?
経緯は不明ながら、俺の歯はとても硬い、なんならダイヤモンドに
だって負けないぞ、いやそんなはずはない、ダイヤモンドの方が
断然硬いだろうという話をしているらしいことは、わかりました。
激しくどうでもいい小競り合いながら、彼の目は真剣です。
歯医者で君の歯を削る、ドリルの先に使われているのはダイヤモンド
だよ、と言ってしまえばそれまで。
でも幼いわたしはなんだか心が痛みました。
俺の歯はダイヤモンドにも負けない、と信じている少年に(同級生ですが)、
真実を伝えればプライドを傷つけてしまうことになる。
普段ならからかってやるくらいのことはするのに、この時は
できなかった。。
あれから長い月日が経ち、彼が今どうしているかはわかりません。
さすがにダイヤモンドでを歯でかち割ってやろうなどとはしないでしょうが、
その純真を懐かしく思います。