システム

電車の中で財布を拾いました。

ぱんぱんに膨らんでいて、中にカードや小銭がたくさん

詰まっているようです。

 

落とし主はすでに、電車を降りてしまったあとらしい。

ちょっとだけ外に覗いていた免許証に、平成6年生まれの

男性の名前がありました。

 

困ってるだろうねえ。

わたしが拾いましたって名乗っておけば、何割かもらえるんじゃないの。

 

一緒にいた人に言われ、いやいやこっちも先を急いでいるし、

本人にちゃんと届けばいいからなどと言って、多少晴れがましい

気持ちを抱きつつ、駅の窓口へ向かいました。

 

何時何分G駅着の、2号車の2番と3番ドアの間の座席の前で、と

言いかけたのを、駅員さんは、どちらの方面の電車かだけでいいですから、

とあっさり遮りました。

財布を渡して10秒で終了。

当然ながら、わたしの名前など聞かれませんでした。

 

たくさんの人が行き交う駅で、毎日たくさんの落し物が

届けられています。

落とした本人にとっては大事件でも、係りの人にとっては

ありふれた業務の一部でしかない。拍子抜けするくらいクールなものです。

だからこそ日々が平穏に、円滑にまわり続けているのだと思います。

見えない機能が、あの財布を知らない誰かに届けてくれるはず。

 

それでもなんとなく、24歳のあわてた表情を思い浮かべてみると、

ちょっと可笑しい。