金色の底

ブザーが鳴ってあたりが暗くなると、ああ始まるとどきどきしてしまいます。

子どもの頃は劇場や映画館が苦手でした。

開演前の暗転に期待よりも不安が勝り、逃げ出したいような気持ちになるの

でした。

 

今でもコンサートホールの照明が、ステージの上だけを丸く浮かび上がらせると、

オーケストラが金色の穴に落ち込んで閉じ込められているように見えて

寂しくなることがあります。

その寂しい穴の底から、バイオリンやビオラやチェロや、あらゆる管楽器などが

音を出し、会場全体の空気がふるえだすと、やっと少し安心できるのです。

 

プロでもアマチュアでも、巧くても下手くそでも同じ。

音が出る直前の居合のような緊張と、音が広がり身体が徐々にゆるんでいく感覚は、

ライブならではの共通のものです。

その感覚を味わうために、足を運ぶのだなあと思います。