ご機嫌な日

「みつまめ、あるかしら?」

 

鈴を転がすような声って、こういう声のことを言うんだろうか。

午後4時過ぎ、喫茶店に花柄のワンピースを着て、ひとりで入ってきた年配の女性。

 

「ああ、ミニスイーツなら三種類選べるのね。

みつまめと、抹茶アイスと、白玉。みつまめの蜜は、黒蜜で!」

「はい、かしこまりました」

店員さんもにこにこ嬉しそうです。

 

「それから、親子丼セット!」

 

これは店員さんも、隣で聞いていたわたしも予想外でした。

 

「スイーツは三種類ではなくて、一種類だけにすることもできますが。。」

「いいえ、大丈夫」

「結構ボリューミーかと。。」

「構いません!」

 

しばらくして別の店員さんを呼び止めて言うには、

 

「あの、スイーツは先ほど食事の前に持ってきてと申し上げたんですけどね、

一緒でいいですと伝えてくださいます?」

「では、親子丼を作り始めますね」

「まあ嬉しい!」

 

たったそれだけのこと。事件もオチもありません。

 

ですが、変な時間にひとりでみつまめと親子丼を食べてしまう優越感と、まあ嬉しい!

という感覚とは、人間的で忘れてはならない感覚という気がして、妙に感じ入って

しまったのでした。

 

 

かくして、同じタイミングにスイーツの三点盛りと重箱に入った立派な

親子丼が運ばれ、幸せそうにぺろりとたいらげていたのを、わたしは見た。