象が登場するお話って、多い気がします。
いずれも共通するのは、大きく、ゆったりとしたイメージが、そのまま
キャラクターになっていること。
のんびりとした雰囲気が絵本の世界になじみやすいのかもしれません。
ただし、「のんびり」なまま閉じる物語ばかりかというと、そうでもなく。
強大な、馬力ならぬ象力を何らかの形で爆発させたときの衝撃は、計り知れない
ものがあります。
「オツベルと象」(宮沢賢治・作 荒井良二・絵 ミキハウス、2007年)
荒井良二さんの絵が見事です。
抑圧された思いがふつふつと膨れ上がっていく不穏さも。
坂道を転がるように物語が急直下する後半も。
勢いのある筆致と色使いが、お話の世界に付かず離れず、むしろ激しく
ぶつかり合って、格闘技でも見るようです。
読んでいるうちに心がぴりぴり痛み、こちらの息も上がっていきます。
この物語に教訓的なメッセージを見出すことも可能ですが、わたしは
「象」をモチーフにしたダイナミックな破壊の過程にこそ、本当の
意味があるように思うのでした。
熱の余韻を感じながら迎えるラストが、とても印象的。
…
「ああ、ありがとう。ほんとにぼくはたすかったよ。」白象はさびしくわらってそう云った。
おや、〔一字不明〕、川へはいっちゃいけないったら。
(上記より引用)