ものを語るからものがたりというのか、ものが語るからものがたりなのか。
特別なエピソードを背負った「もの」たちが、持ち主や作り手にとって、
何にも替えがたい存在になることは確かです。
「わたしのしゅうぜん横町」(西川紀子 作 平澤朋子 絵 ゴブリン書房、2009年)
不思議な少年に連れられて迷い込んだのは、「たんす屋」「カード屋」
「ロケット屋」など、しゅうぜん屋ばかりが並ぶ、しゅうぜん横町。
個性豊かなしゅうぜん屋たちは、それぞれ仕事にプライドを持った職人であり、ものにまつわる
ストーリーを引き出す語り部でもあります。
ものに対する愛着は、価格や希少性といった、相対的な価値に左右されるものでは
ありません。
むしろ、わたしがこの本を読んで思い出したのは、子どもの頃持っていたきれいなビー玉とか、
きらきら光るシールとか、においのついた消しゴムなどのことです。
大人にとってはちっぽけなガラクタでも、宝物のように大事にしていて、時々ひとりで取り出して
見ては晴れがましい気持ちになっていた、あの感覚。
今はもう、どこにいってしまったかわからないけれど、確かにあれらは子ども時代の思い出を
込めた、特別なものたちだったのだなあと思い起こすのでした。