この世に生きている以上、いつか必ず別れのときがやってくる。
頭ではわかっていても、いざ直面すると、すぐに受け入れられないものです。
「シロは死なない」(北方謙三・作 浦沢直樹・絵 小学館、1991年)
命の重さをテーマにした本はいくつもありますが、最終的に物語をどう
導いていくかで話の質は変わると思います。
この本は、最近紹介してもらって初めて読みました。
子どもの読者を対象にしていると言っても手加減がない、誠実な本
だという印象でした。
主人公の孝夫くんは、たったひとりで戦っています。
周囲の人々はみな、おとなで、彼を理解しません。
年齢的には子どもであるはずの兄や同級生までも例外ではなく、
孝夫くんにしてみれば、すべてが不条理な世界です。
小学校1年生が負うものとしては、なかなか重いものがあります。
しかし、彼が戦うべき最大の不条理は「死」そのものです。
その正体は物語の最後になってもわからないもの、消化しきれない
ものとして描かれます。
唯一孝夫くんに寄り添うことができるおとな、おじいちゃんにすら、
わからないのです。
ただ、考えてみると、身近なものとの別れからしばらく経ったあとで、
当時は気づかなかったことが、初めて自分の内部にすとんと落ちる瞬間
があります。
それは「理解」というよりも、対立していた周囲の
世界との「和解」と言った方が適切なのかもしれません。
ここで初めて、死を受け入れることができたということなのでしょう。
本の中では、和解の段階までは描かれません。
読者は孝夫くんと一緒にこの過程を経て、やっと物語は完結するのかも
しれません。