絵が上手になりたい、という声をよく聞きます。
そうですね、わたしもなりたいです、と答えますが、なんとなく
その人の言う「上手」と、わたしが思う「上手」の間に隔たりが
あるようです。
モチーフを写実的に描けていることが、上手い絵の
条件だと考える人がいます。
つまり、形をとったり、影の濃淡をつけたり、光のニュアンスを
とらえたりするのが上手ということです。
重要なテクニックですが、必要十分条件ではない気がします。
あらためて考えると、「描く」とは不思議な行為です。
絵画は、本当は立体的な三次元であるはずのモチーフを、平面の二次元に
落とし込みます。
多くの絵画は四角い紙やキャンバスに描かれますが、普通、人の視野は
もっと有機的な形をしているはずで、四角形ではありません。
要するに、絵画はうその世界なのです。
架空の四角形の中に存在する、幻の空間なのです。
絵を描くことは、「平面的、四角形」という制限をどのように活かすか、逆に、
どのように裏切るかという、せめぎ合うふたつの力の格闘だと考えます。
たとえば、同じリンゴを描くのでも、真ん中にひとつ描くのと、右上の角に
描くのと、めいっぱい100個描くのでは、四角形のとらえ方がまるで違います。
ここに作者のものの見方、考え方や、絵画的良し悪しが表れると思うのです。
きれいなリンゴの形というのはあります。
しかし、必ずしも現実のリンゴそのものの形ではないかもしれません。
画面を構成するにあたって「きれい」なリンゴの形を選択できるか
どうかが、画力だと思うのです。
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