梨木香歩さんの小説「西の魔女が死んだ」。
有名な作品なので読んだ方も多いかもしれません。
主人公の少女まいがおばあちゃんの家に滞在する際、普段使っている
マグを荷物に詰めるシーンがあります。とても好きな場面です。
『「おばあちゃんのうちにだって、ティーカップぐらいあるわよ」と、ママは
あきれていたけれど、使い慣れたこのマグがあるとその回りにぼわんとした
「自分の居場所」のような空間が紘がって、きっと予想されるホームシックが
防げる、とまいは思ったのだ。』
(梨木香歩「西の魔女が死んだ」 2001年 新潮文庫より引用)
まいにとって重大なのはマグそのものでなく、自分がこれまで過ごしてきた
日常です。
まいは、愛着ある「もの」が発している空気や雰囲気などが、自分の日常を支え、
深く影響を与えていることを知っています。
日常と離れた場所に急に移動した時、心と体が混乱する状態をホームシックと
呼ぶなら、衣類とか、歯ブラシとか、実用的なものはいくらでもありますが、
また違った意味で必要なものがあること、その象徴がマグなのだということを
体験的に知っています。
自分の足元や生活を見つめる目が鋭く、魅力的な主人公です。
ものの価値を測る方法は様々です。
ものそのもの。あるいは目に見えない、ものにまつわる様々なもの。
その人にとって最も大切なものとは一体いくつくらいあるのだろう、と思います。
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