はさみ

はさみが二丁ありました。

わたしが幼稚園の頃に使った、オレンジ色のはさみです。

 

途中で幼稚園を変わったので、それで二丁あるのだったか。

思えば彼らは、紙や、布や、本来はさみの管轄ではないような

タフなものまで、色々切ってくれました。

この双子のはさみは、おとなになっても、大抵わたしの机の上に

いて、重宝がられていたのでした。

 

まさか、あんな風に別れる日が来るとは。

 

わたしはある時、一方を旅行に連れて行ったのでした。

旅先でも、彼(はさみ)は八面六臂の働きをしてくれました。

無事に用が済んで、意気揚々と帰路につこうとした、その時。

 

金属探知器が反応しました。

カバンの中のペンケースを探ります。

わたしはミスを犯しました。

なぜ、彼(はさみ)を、手荷物の中に入れてしまったのか。

 

「これはだめだよ」

はさみはその場で没収されました。

大きい荷物は預けたあとだったし、どうにも仕様がなかった。

わたしは異国の地に彼(はさみ)を残し、飛行機に乗り込む

ことになったのでした。

 

今、机の上にはさみは一丁しかありません。

もう片方は今頃どうしているでしょうか。 

以上、はさみにまつわる悲しい思い出でした。