鉄の匂い

先生に問い詰められそうになったとき、わたしたちはちょっと

困ったな、と思ったのです。しかし次の瞬間、わたしは言いました。

「いいえ、一度家に帰ってから、ここに来てるんです」

 

記憶によると、放課後小学校の校庭で遊ぶにはルールがありました。

まず家に帰り、荷物を置いてから遊びに来なさい、ということでした。

心配させるから、家の人に連絡せずに居残るのはやめなさい、という

意味だったと思います。

 

その先生は、低学年の頃からよく知っている先生でした。

先生はわたしの顔から目をそらして、「そう」と言って行ってしまいました。

友達は、どうしてあんなこと言ったの、という顔をしました。

先生はわかっていたんでしょう。

校舎の裏に、わたしたちのランドセルがごろごろ転がっているのを。

 

大げさに言えば、その時、わたしは先生の信頼を失ったと感じました。

子どもの頃はこういう「裏切り」に敏感だったし、また自分が

「裏切った」ことに対してひどく傷ついていたなと思います。

先生がそれ以上何も言わず、とがめなかったことが逆にわたしの気を

重くし、長い間片隅にひっかかっていました。

 

校庭の遊具で遊ぶと、いつの間にか手や服が赤いサビで汚れている

ことがありました。

 

小学校の思い出は、鉄の匂いとセットになっているのでした。