「お待たせしました。でじる巻卵です!」
でじる…?
思わず店員さんが持ってきた料理を覗き込むと、何のことはない、
だし巻卵でした。
だし=出汁を間違えて読んでいたのですね。
わたしは子どもの頃、「富士山」は人名だと思っていました。
「富士山、今日は見えるかな」と言われて、
「富士山、今日はもう寝ちゃったんじゃない?」と答えた記憶があります。
やがてわたしは、富士山が山であることを、誰に教わるでもなく自然に学んで
いきました。
同じように、七五三が人名ではなく子どもの成長を祝う儀式であることや、
ペンギンは北極でなく南極に住むこと、台風一家が台風一過であることを
覚えました。
既成事実に知識を近づけていくのはそう難しいことではありません。
時間と、それに伴う経験が世の中を見る目を一定の方向に変えていくからです。
でも、時々考えます。逆に、既成事実から離れて物を見たり、感じたりすることは
なんて難しいんだろう。
布団ですやすやと眠る富士山の想像を膨らませていたあの頃は、なんて貴重だったん
だろう。
わたしは、だし巻卵ですよ、と店員さんに言ってあげた方がいいのか、ちょっと
悩みました。
「でじる」っていう料理は、どう考えてもまずそうだもんなあ。
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