すみません、と後ろから声をかけられました。
振り向くと、20代のサラリーマンらしき人が立っています。
「U駅へ行くには、この道をまっすぐ行けばいいんでしょうか」
どちらかというと、わたしは方向音痴です。
そうとは知らず道を尋ねてくる人がたまにいて、そのたびに
冷や汗をかいています。
この道をまっすぐ行けばいいんでしょうか…。
わたしはその時、地下鉄のY駅を目指して通りを歩いていました。
JRのU駅はY駅のさらに先にあるはずです。
この近辺は何度も来たことがあるので、先のはず、とわかっているけど、
「この道をまっすぐ」ではないような。
「この道をまっすぐ行くと大きな通りにぶつかるので、そこを左に曲がれば
U駅です」というような答えができれば正解なのに、それが導けない。
スマホの地図を見ても、人に尋ねられたことで何か妙に焦ってしまって、
そもそも自分が今いる場所が地図上のどこにあたるのかわかりません
(GPS機能を使えばよかったのに、その時切っていた)。
時間があるから、散歩がてら地下鉄駅まで歩いてみようかな、と陽気に考えていた
休日の午後が、突如「ここはどこわたしは誰」の暗黒の世界に落とし込まれて
しまいました。
それは冗談にしても、やっぱりわたしの方角に対する認識は日頃からかなりあいまい
で不安なものなんでしょう。
感覚的にわかった気になっている事象を、いざ他人に伝えようとしても、筋道立てて
説明するのはとても難しいことです。
説明を求められることで、初めて認識の甘さがわかるとも言えます。
「えーと、多分こっちだと思うんですが…」
わたしの答えは全く要領を得ないものでしたが、歩いてきた方向が同じだし、とにかく
途中まで一緒に行ってみようということになりました。
しばらく歩くと、案内板がありました。
「あ、Y駅って書いてありますね」「はい、地下鉄の駅はここで…あれ?」
ここに入り口なかったっけ。もう1本先かな。
「大丈夫ですか?」
ええ、そうですよね。大丈夫かって思いますよね。
こんな道案内で、すみませんでした。
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